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Production for Spring/Summer

日常的に、長く愛用できるニットウェアの提供を掲げているわたしたち(筆者Bと糸制作を担当するO)にとって、春夏シーズンにおけるニットウェアの制作には難題が多い。
繊細なハイゲージのニットは素敵だけれど、わたしたちの考える“Utility Knitwear”のイメージには合わない。そもそも蒸し暑い日本の夏にはニットウェアは必要なのか?それでもわたしたちが制作するべきものは何なのか。2人で喧々諤々の(笑)話し合いを重ね、制作したのが23SSのアイテムだ。
本当に暑い夏は想定外とし、初春から5月位の気候を実際に感じながら制作を進めた。
スウェットやバスクシャツなどの「長袖のプルオーバー」、カーディガンやブルゾン、ワークシャツなど「羽織れるもの」。
シーズンレスに愛用しているそれらのアイテムは、もう完成品として素晴らしいものが存在しているのだから、何もわたしたちがつくることはない。同じように愛用できるもの、それでいて、ありそうでないもの、を作ってみようということになった。
わたしたちのものづくりはまず素材を考えるところから始まる。今回のキーワードは「ドライな肌触り」。
ドライタッチをキーワードに、Oが素材に惚れ込み、長年取り扱ってきた糸の一つ「和紙糸」を使った素材の開発からスタートした。
福井にあるメーカーが独自製法で作っているこの和紙は、その独自性を簡単に伝えるのが難しい。
多く流通している他社素材と違い、木材由来のパルプ原料を使わず多年性植物であるマニラ麻の繊維から作られている。
パルプ原料と違い、長繊維である多年性植物は、繊維が絡み合い丈夫な紙になる。これが日本で伝統的に作られてきた和紙の特性でもある。
マニラ麻は自然に原生し、刈り取っても3年で再生を繰り返す多年性植物で、森林伐採で環境への負担をかけることがない。生分解性も高く、数か月で100%土に還ることが実証されている。
環境負荷の少なさだけでなく、この和紙には製造工程に由来する様々な効能があるのも特徴だ。
調湿性に優れ、ドライな着用感、涼感があり、紫外線防止効果や抗菌性、消臭性もある。
和紙から糸を作る工程は、恐ろしく手が込んでいて、わかりやすく要約するのが難しいため省略するが、手間暇をかけた工程を踏んでいく独自の技術によって、堅牢な和紙繊維を細番手の糸にすることができ、色々な糸と掛け合わせて新しい素材をつくることもできるのだ。
その「和紙」を様々な糸と掛け合わせ、糸を試作しては編地を作り納得のいく素材になるまでトライアンドエラーを繰り返しながら作り上げたのが今回のニットウェアだ。