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[036]
Boiled Cashmere/Shetland wool


先シーズンから継続しているテーラード型とVネックのニットジャケット。オーストリアの伝統的なチロリアンジャケットで、ニットジャケットの名品HOFERのジャケットをモチーフに制作したプロダクトだ。
ずっしりと重いウール100%のHOFERのオリジナルとは違い、軽さとソフトな風合いを出すためのカシミヤと、フェルト化させて保形性を保つためのシェットランドウールを掛け合わせて、新しい解釈で制作している。
オリジナルはコインモチーフのメタル釦で左右フロントの合わせを変えられるダブルリンクスだけれど、わたしたちのものは真鍮製のシンプルなメタル釦を縫い付けにしている。
一見普通のどこにでもありそうなメタル釦だけれど、裏面に刻印を入れ、Oが手作業でエイジング加工して、さりげない味を加えたものだ。

このジャケットの制作にあたって、最大の難関は縮絨工程だ。
トリミング部分まですべて形にしてから、洗いの工程=縮絨でぐっと縮めてフェルト化させるのだけれど、理想の肉感に仕上げるためには数時間、適正の温度で洗い続けなければならず、それが可能な加工場はなかった。
そうなると自分たちでやるしかなく、前シーズンの量産もすべて自分たちで手掛けた。何時間もかけて自宅の洗濯機で洗いを繰り返し、乾燥機にかけるためコインランドリーを何度も往復して、半渇きにした製品をベランダで天日干し、そして最後にプレス仕上げ。

1日で加工できる量は最大でも6着ほどで、洗いや乾燥の過程で何度も肉感やサイズを確認しながら進めていくやり方は、とても量産の加工場ではできないもので、仕上げたいイメージやサイズを熟知した自分たちにしかできない作業だ。
量産には向かないけれど、手間と時間と労力を惜しまなければ完成する。
それこそSlopeslowの真骨頂と自分たちを鼓舞しながら制作した製品は、すべてきちんと仕上がり、店頭へ送り出した。横山剣さんが言っていたとおり、やればできるものだ。
手間暇労力をかけた仕事の良いところは経験値とデータを得られる事。
積み重なった経験とデータがレシピになる。
ようやく仕上がったそのレシピを継承したいと、また懲りずに今シーズンも新色に切り替えて継続している。
毎日加工に追われていた昨年の夏、とうとう我が家の洗濯機は疲れ果て旅立ってしまったけれど、
今は新しい洗濯機も揃えて準備万端だ。