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[027]
Boiled Cashmere/Shetland wool

HOFERのニットジャケット。オーストリアの伝統的なチロリアンジャケットで、ニットジャケットの名品の一つでもある。
残念なことに廃業してしまったHOFERのジャケットは、現在古着でしか入手できない。
以前からこのHOFERのチロリアンジャケットをカシミヤとシェットランドの糸を使って作りたいと、Oが事あるごとに言っていたのだけれど、作る工程の困難さを想像できるだけに、その都度お断りを入れていた。
それでも決してあきらめないのがO。その鈍感力を少しでも分けて欲しいものだ。
糸の仕立てはOが既にイメージしていたのですんなり決定。
テーラードのラペルやヘムのカーブしたトリミングなどニット工場にはハードルの高い難しい仕立ては、日本でも屈指の技術力を誇る工場へ依頼することでサンプル制作がスタートした。
HOFERのジャケットの作りを細かく分析してみると、恐らくトリミング部分まで形にしてから最後に縮絨でグッとフェルト化させるという作り方だ。
この縮絨が厄介で、HOFERのウール100%と違いカシミヤを半分以上入れているので縮絨により時間がかかる。ウールよりもキックバック性がないので地の目の違うトリミング部分と身頃の縮み方も違い、トリミングがヘロヘロになってしまう。
何度やっても縮絨加工が上手くいかず、結局縮絨は自分達で行うことにした。
様々な問題を3~4回のサンプル試作を経てようやくクリアし、イメージしていたジャケットが仕上がった。
Oの提案をお断りし続けていたわたしの想像は確かだったと実感したけれど、粘り強くやればなんとかできるものだ。横山剣さんも言っていた。
モチーフにしたHOFERのジャケットを制作する上で、もう一つの困難はメタル釦だ。
オリジナルにはコインをモチーフにしたメタル釦が使われている。カフリンクスのようにダブルになっていて、左右フロントの合わせを変えられるものだ。
HOFERのデザインを完コピしたいわけではないので、メタル釦はヴィンテージで見つけた真鍮製のシンプルなデザインのものをモチーフにオリジナルで制作した。
とはいえ、こうした付属の制作には様々な制約や背景が複雑に絡み、昔のものを再現するのは不可能。出来上がった釦をどうにかして味のある雰囲気にしたいと、Oが1個ずつ手作業でエイジング加工を加え仕上げている。
HOFERモチーフのチロリアンジャケットは、オリジナルのものと違いカシミヤのソフトな風合いが生きたより軽く着やすいものになっている。今の気分に合うようにシルエットやバランスもアレンジし、素材の軽さに合わせてダブルリンクスの釦ではなく、縫い付けの仕様に仕上げた。釦ホールもミシンではなく編みで空けている。
より気軽に羽織れるようにとVネックのデザインも制作。
後は量産の縮絨加工で家の洗濯機が壊れないことを願うのみだ。